2002/08/01UP
軒先の訪問者
我が家の猫一匹が7月に姿を消した。といっても飼い猫ではない。 1年ほど前から一家で軒先に住み着き、特に歓迎するでもなく放置していた。 名前はない。グレーの雌と一緒にいたから、「白い方」と呼んでいた。気まぐれに焼き魚の残りなどを進呈していたが、病身なのか体はやせ細る一方。 それが玄関先にちょこんと座り、骨張った体をすり寄せて甘えてきた。 姿を消したのはそれから間もなく。迷惑をかけないよう別れを告げてから逝ったのかと思うと、心が痛んだ◇母猫が健在の時は、子猫をひきつれてこっそりと家に入り込み、 炬燵の中を占拠されたこともあった。雪に覆われた夜、 軒下に三匹が一塊りになって暖を取る姿にそっと座布団を差し入れた。あまりのずうずうしさに閉口することもあったが、憐憫の情には勝てない。 凶暴な野良猫群が闊歩する中、ひたむきに子育てする一家にちょっとした共感すら覚えていた◇思えば飼い猫を含め、これまで多くの猫と別れを告げてきた。知人に譲り渡して幸せに暮らす子どももいれば、 硬直した亡骸を霊園で見送った猫もいた。時間の長短はあるけれど、喜んだり、すねたり、怒ったり、と素朴な感情を見せてくれる彼(彼女)たちにたくさんの温もりをもらったのは間違いない。 ひっそりとした軒先を眺めながら、私の生活をかすめ、そして消えていった母子の猫の安らかな最期だけを願った。