2002/03/01UP


不感は不快

 激しい雑音に、かすれる音声。「えっ、何?」。冷静に話しているつもりが、声はどんどん大きくなり、いらいらが募ってくる。携帯電話を握る手に力がこもってくる。「だから聞こえないの」。相手は会社の上司なのに、しまいにはけんか腰になっている。携帯電話に表示されるアンテナがいかにも頼りなく、か弱く明滅している。「ここもだめか」。うんざりした気持ちで車を滑らせ、感度の良好な地点をさがすほかはない。◆デスクからの問い合わせから、関係機関からの連絡、市民の情報提供まで。支局生活は連絡経路の糸を絶つことはできない。その最も強力な武器が携帯電話だ。自宅にかかってきた電話も転送されるから、便利さはこの上ない。でも、それも受信が可能であればこそ。角田市でも周辺部にいけば広大な「不感」地帯が広がる。2つの携帯電話、 モバイル、ポケベルのツールに身を固めていても、圏外では意味がない。ぷっつりと外部社会から取り残されたような不安感に包まれてしまう。◆そういえば、長野県知事に就任したばかりの田中知事も県内の受信状況に強い不快感を示していた。今ならその気持ちがよく分かる。観光地を抱える土地柄であればなおさらだ。いまや携帯電話使用そのものが、来訪者に対する重要なサービス項目になっている。「今日は深夜まで丸森町の○○にいます。電話番号は・・・」。こんな報告を社にあげて支局を出る。美しいはずの山並みが、この時ばかりは恨めしい断崖となって迫ってくる。