2006/01/01UP


自己責任

 読者の皆様、明けましておめでとうございます。 時の流れは早いもので、角田に赴任したのが昨日のようにも思われるのに、 年が変わってしまいました。赴任当初は3年ぶりの外勤記者生活で勘を取り戻すのに苦労したものですが、最近は淡々と仕事をこなせるようになりました。ただ、これは喜べることではありません。以前読んだ文章に、「10の不正確な仕事よりも、ひとつの丁寧な仕事を心掛けよ」というものがありました。効率良く仕事を処理できるのは進歩したように見えても、いつしかそれが抜けがたい癖になって、それなりの仕事しかできなくなる。そんな趣旨でした。今年一年、気持ちも新たに仕事に取り組んでいきますので、昨年同様、応援いただければ幸いです。また、本年もみなさんからの情報やご意見をお待ちしています。

河北新報角田支局 上田 敬
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 ◆…昨年末から、マンションの耐震強度偽装事件が世間を騒がせている。事件の当事者たちに最大の責任があるのはもちろんとして、一連の経過を見ていた中で何よりも腹立たしかったのが、イラクの日本人人質事件と同様に「自己責任」を振りかざして住民らを非難する風潮があったことだ。「安かろう悪かろうの買い物をしただけ」と風当たりが強かったようで、政府も当初、「民、民の問題」などと他人事のような対応だった。◆…けれど、考えてみれば、政治の最も基本的な機能は、一個人では手に負えない危険というものを、できる限り減らすことにある。社会一般に流通し、公的な建築確認までも出されていた物件のウソを、専門家でもない個人が見抜けるはずがない。政治の責任として、積極的な支援をするのは当たり前のことではないか。◆…平等の概念への誤解があるのだろう。ある有識者はこんな例え話で説明していた。「戸締まりが不十分で泥棒に入られた家に対しても、警察は多額の税金を使って捜査するではないか」と。さらに言えば、火の不始末で火事を出した家を消防士は無料で消火する。病気一つしないで長生きする人と、自分の生活の延長として生活習慣病になり、健康保険を使って診療を受ける人の差をどう説明するのか。◆…例を挙げればきりがない。税金の使われ方は、そもそも不平等なのだ。自己責任論を自らの失態の言い訳にした行政と、その裏を考えず、他人を笑い、意地の悪い優越感に浸るかのような一部の風潮に「いい加減にしろ」と言いたい。自己責任を突き詰めていけば、不測の事態にただほんろうされるしかなかった時代に時計の針を逆戻ししかねない。