2005/11/01UP


不自由な社会

 ◆…最近、取材先で「個人情報が含まれているので、この資料はお出しできません」と言われるケースが多くなった。 個人情報保護法施行以後、特にその傾向が強い。個人情報を悪用した事件が各地で多発し、敏感になってしまうのも理解できる。けれど、無理を言って資料を見せてもらえば、ただ名前が列挙されているだけのものだった―などというオチが大半だ。◆…かくいう我が社でも、社内の職員名簿が今年から、氏名だけしか掲載されなくなった。今までは役職と住所や電話番号が記された一般的なものだったのだが。誰がどこの部署にいるかは社員なら知っているわけで、名前だけしかない名簿など、使い道のない無駄な冊子。年賀状を出すのにも、不便この上ない。◆…警察関係者に聞いた話では、交通事故の被害者が運ばれた病院で、問い合わせに答えてくれないケースが年々増えているという。警察官が捜査のために聞くのであっても、だ。けがの状態は、その後の捜査の展開にも関わる。 実際に病院に行かなければ話を聞けないとなると、限られた警察官しかいない中で、負担が大きすぎるという。◆…便利な情報や業務上必要な情報が次々と閉ざされていく一方、ネット上では情報が垂れ流しだ。個人のプライバシーを含む内容が記載され、中には読むに耐えない罵詈雑言も見受けられる。また、学校や企業の名簿が高値での取引の対象となって久しい。悪意を持って情報を集めればいくらでも可能であるのに、正当な目的での情報収集がどんどん難しくなる。この矛盾。さらに、取材現場の感想を言えば、都合の悪い情報を隠すために、「個人情報保護」を持ち出しているのではないかと疑ってしまうことさえある。◆…本来、自由な情報共有は市民社会の基盤である。人と人のつながりができたり、新たなビジネスチャンスを見つけたりと。悪用されることを恐れるあまり、閉ざされた社会に進んでいるようで、何とも気味が悪い。近未来を描いたSFの定番は、情報を一部の権力者が握り、一般市民は都合の悪い情報を遮断された中で自由が奪われていく。そんな悪夢のような物語さえも、現実になりつつある。◆…必要なのは、悪用されない仕組みを一つずつ緻密に考えること。面倒なことかもしれないが、思考放棄して情報をしまい込んでしまうのは、不自由な社会を作り上げる自殺的な行為だと思う。