2005/10/01UP


高い買い物?

 ◆…「あぶくまの風かおる健康都市」。角田市のキャッチフレーズで、市職員の名刺にもたいていこの文句が刷り込んである。 阿武隈川の水を見てもわかる通り、実際にはあまりいい香りとは言えないところはご愛嬌だが、角田市の特徴を良く表している。阿武隈川に沿って広々とした空間が開け、水と緑に恵まれている。川沿いの平坦地には、温水プールや陸上競技場、野球場なども整備され、健康的なイメージを醸し出す。◆…これはこれで良いのだが、アピール度という点ではもう一つという印象が否めない。「のどかな田園地帯で、人も穏やかで…」。市外の友人に「角田へいらっしゃい」とお誘いを掛けてみても、今ひとつ乗り気になってくれない。この点、「温泉があるよ」「ウマイ魚が食えるよ」とアピールする点があれば、実際の中身をあまり知らなくても人は心を動かされるものだ。印象の薄い人が仕事や人付き合いをする上で損をしてしまうように、都市もまた同じ。定住促進や企業誘致、観光客増加などを狙う上でも、「売り」がどうしても必要だ。そこで個人的に注目しているのが、グライダーを核としたまちづくりの試みだ。◆…角田には、数年前から利用されている滑空場がある。休日などには真っ白な機体が角田の上空を舞う姿が見られるので、ご存じの方も多いかと思う。ただ、残念なのは利用が本格化していないこと。県内のグライダー愛好者は、陸上自衛隊の霞目飛行場(仙台市)を利用してきたが、業務優先という施設の性格上、飛行には制約が多い。この点、角田滑空場はグライダー専用だから、自由な飛行が可能な上に、気象条件にも恵まれているという。ただ、現地は河川敷にアスファルトを敷いただけで格納庫もなく、常時機体を置いておけず、利用者側は霞目から拠点を移せないでいる。ただ、施設整備を民間だけで行うのは荷が重い。利用者側は、格納庫建設や付帯施設の整備への行政支援を求めている。◆…確かに、グライダーが一部の人の趣味だと捉えれば、行政が支援する筋のものではない。けれど、「グライダーのまち」という看板が手に入れられるのであれば、政策として後押しする理由ができる。市内では、グライダー愛好者と市民有志が手を組んで設立した団体「スカイネット角田」が、全国唯一という曲芸飛行の大会を昨年初めて開催するなど「スカイスポーツのまち」を目指して活動を続けているという下地もある。◆…空、あるいは飛行機というものは、一般受けする魅力がある。空へのあこがれは高所恐怖症の人を除けばほとんどの人が持っているはずで、各地の航空イベントが大盛況なことからもそれが分かる。日常的にグライダーが飛行するようになれば、見物客がまず増える。さらに、 市民も気軽に大空の散歩が楽しめるようになる。免許を取って自分で操縦したいという人も出てくるだろう。加えて、スカイネットが提案する「航空公園構想」まで実現すれば、大きな観光資源になる。何より、「空を飛びにおいでよ」と言えるのは、市民としてはうれしいことだ。◆…税金の使い道としては、当たるかどうか分からない賭けの要素があるものには支出しづらいのかもしれない。けれど、今は市町村間競争の時代。攻めの姿勢も必要だ。ほかのまちにはない素材があることを幸いに、それを大きく育ててみたい。