2004/02/01UP


青い目の人形

 昨年末から、丸森町で「青い目の人形」を取材する機会に恵まれた。各地で話題になっていたのは知っていたが、現物を見たり、話しを聞いたりするのは初めて。戦前、米国から親善の証としと贈られたはずの2体の人形は、いずれも髪が抜け、服もない惨めな状態で発見されていた。あまりに似た状況を不思議に思い、地区の長老に理由を尋ねてようやく合点がいった。「太平洋戦争になって敵国の人形になったからね。みんないじめてこうなったんだよ」。◆戦闘のプロであった武士や騎士が戦場で名誉をかけて戦った中世と異なり、銃後になるはずの一般市民を精神的、物質的に戦争に駆り立てる近代戦争。敵国の属性という理由だけで、無垢な子どもを象った人形にまで敵意を募らせる「戦下」の狂気に、身震いする思いがした。◆「多大な被害を受けた」「国土が著しく荒れた」。かつて学校教育で習った歴史の中でも、戦争の被害は学んだはずだ。それでも、簡略、単純化された記述に時代に流れた「狂気」を読みとるのは難しい。学校教育だけで、女性や子どもまでが無慈悲に暴行、殺害された数々の 歴史を伝えられているかは疑問だ。そこにこそ本物の悲劇があるというのに。◆虐待された青い目の人形の無惨な姿に、戦火に泣いた人々の姿が重なる。痛かったろう。つらかっただろう。古い時の流れに 沈殿した弱々しい叫びを、人形が代弁しているような錯覚すら抱く。◆これら2体のうち1体が先日、平和教材という新たな使命を帯びて地元の小学校に寄贈された。凄惨な事実を教えるのが難しくとも、人形を通じてなら歴史の説明はたやすくなるだろう。子どもたちだけでなく、一般の方にも機会があれば是非とも修復前の姿と合わせて見てほしいと願う。「戦争と平和」「安寧秩序」の意味がきっと伝わるはずだから。