2004/03/01UP


じっくり納豆づくり

 角田市で発売された「手作り納豆セット」の体験ツアーの取材ついでに、関係者の計らいで納豆づくりに飛び入り参加させてもらう機会があった。作業はわらを編み、豆を入れる「つつこ」づくりから。わらを一本、一本、丁寧に編み上げる緻密な作業。慣れない作業に戸惑いもあったが、どうにかこうにか形は作れた。つつこの完成後には、簡単な工程が待っているだけ。加工済みの大豆を中に納め、熱源と一緒に箱に収納し、完成までの二昼夜をどきどきしながら過ごした。◇わらの微香の中で、大豆が力強い糸を引く。食べ慣れているはずの食材なのに、発泡スチロールのパック入りのものとは明らかに何かが違う。「うまい」。原料にこだわっているはずだから豆そのものの品質が高いのかもしれない。でも、それだけじゃないような気がする。わらを編み上げる作業、箱に収め、じっくりと熟成を待つ時間。そんな「食べるまでの行程」が豆の味を引き立てる。味覚だけで楽しむ美食とは違い、過程にある様々な体験が味を引き立て、心も豊かにしてくれることもあるのだと知った。◇ファストフードとスローフード。注文して金さえ払えば確実にサービス提供される前者は、理屈は分からなくてもボタン操作で稼働する多目的な機械にも似ている。何が、どう調理され口に運ばれるのか。過程はすべて【ブラックボックス】の中。そこに生じた不安や疑念が、近年の偽装事件といった食を巡るトラブルの底流にある。手作りの妙味は、大量生産、大量消費社会で暗闇に閉じこめられた「食」を、自分の手に取り戻すことにある。その時、味覚も正直に応えてくれるはずだ。