2003/04/01UP


選挙戦の遠い思い出

 昨年のことになるが、かつて政治に携わった角田市内の高齢者の男性から興味深い話を聞いた。日本が高度成長期に向かっていたころの、国政選挙の運動をめぐる体験談だった。近隣のある自治体で行われた演説に男性は運転手として帯同した。そこでの候補者の選挙演説が問題だった。 その自治体への大型公共事業の誘致を否定する発言に聴衆が怒り、石を投げられ、逃げるように車を運転して帰ってきたという顛末。男性の淡々としたその述懐に、思わず考えさせられた。◇当選だけを考えれば、地元に迎合すればいい。たとえ事実でも地元の不利益を語ることは選挙戦に利は生まないし、勇気だって必要だ。それでも候補者は信念を語り、聴衆も真っ正面から発言を受け止めた。 言論に暴力で訴える蛮行は許されるべきじゃないが、聴衆の反応だって政治家の発言の実効性を信じ、一言一句に誠実に耳を傾けていたからこそだろう。生活と政治が今日ほど乖離(かいり)していなかった時代。その選挙民と選良のほどよい緊張関係に関心させられたのだ。◇今年は統一地方選の年。県、市町村議、各首長など各種の選挙が仙南でも予定されている。告示になれば、 各候補の訴えが街角を埋め尽くすことだろう。私にとっても角田市民になって初めての地方選。 一人でも多くの市民がそれぞれの主張と真剣に向き合い、投票所に向かうことを期待したい。(記者としては自家撞着かも知れないけれど・・)選挙の本当の意味は陣営の勝敗でなく、小さな民意の集約、投票行為を通じた政治への参画にこそあるのだから。