2021/3/1UP


地方発の風

 取材の現場で逆に質問を受けました。「報道の仕事に興味があります。インターンシップ(就業体験)やっていますか」。1月10日の角田市成人式で20歳の門出を迎えた感想を聞こうと晴れ着の女子大学生に声を掛けた時のことです。いつも地域の話題をのんびりと取材している身ですので、若者からの熱意あふれる問い掛けにはいささか当惑しつつも、記者の仕事に目を向けてもらい光栄に感じました。 質問の答えですが、河北新報社は東日本大震災の被災地で大学生が取材する「記者と駆けるインターン」を9年前から行っており、地方紙でありながら東京などからも多くの参加があります。昨年は新型コロナウイルスの影響で開催しなかったようです。式典の場だったので学生さんに内容を詳しく説明することはできませんでしたが、もしインターンが再開したら、ぜひ参加してもらいたいと思います。 金津中の生徒が進めている閉校記念誌の制作も、報道の仕事に興味を持ってもらうきっかけになりそうです。キャリア教育の一環で生徒が企画や取材を手掛けます。自分たちが暮らす地域の特色や誇りを再発見する機会になるでしょう。昨年には、本社の記者が情報発信の手法を教室でレクチャーしています。こうした経験を通して将来、金津中最後の卒業生の中から記者が誕生したとすれば、閉校記念誌の取り組みを記事にした自分としてもうれしい限りです。まずは記念誌が無事に完成し、地元に限らず市内外で広く読まれる価値の高い一冊になることを願います。金津の伝統文化や風土、そして生徒たち自身の活動や地元への思いを広く発信する効果も期待できるのではないでしょうか。 新聞づくりでも似たようなことを考えています。河北新報は東北・宮城の地方紙で、全国紙に比べれば、取り上げるのはローカルな話題が主です。それでも「地方発の風」を広く全国へ届けたいとの思いで取材しています。地方ならではの営みや熱意、訴えなどを地域密着の姿勢で受け止め、報じるのが地方紙の役割です。一昨年前に国内外から西根地区に多くの見物客を集めた羽生結弦選手の田んぼアートの記事は、その実例と自負しています。産業や文化、市民の地域づくり活動など、多様な分野で地方は都会をしのぐ「風」を秘めている。角田で改めて実感しています。 いつか地方紙記者志望者に仕事の魅力を尋ねられることがあれば、角田での取材経験を紹介しながら「地方から吹いた風で全国の風車を回す。それを後押しするのが地方紙記者の使命でもあり醍醐味だ」と熱く語ってみたいものです。ちょっぴり先輩風を吹かせながら。


今年の角田市成人式

閉校記念誌の製作に取り組むため、
昨年から準備を進めていた金津中2年生