2020/11/1UP


こんな人がいたんだ

 「こんな人がいたんだ、角田にも」と思っていただければ、こちらとしても手応えありです。 8月28日付朝刊の宮城県内版「先人の足跡」で、東根村坂津田(現角田市坂津田)出身の医師佐藤基氏(1894~1968年)を取り上げました。多くの糖尿病患者を救う治療薬となるインスリンを発見し、ノーベル医学生理学賞まであと一歩だったとされる方です。東北帝大(現東北大)医学部の助手として、後に総長となる熊谷岱蔵氏と研究に打ち込んでいたのですが、ノーベル賞は残念ながら、同時期にインスリンを発見したカナダの医師バンティングらに渡りました。熊谷、佐藤両氏の報告が、わずかに遅かったと伝えられています。佐藤氏は、その後、仙台赤十字病院の初代院長となり、戦後から高度経済成長期にかけて仙台の医療現場で活躍しました。 「先人の足跡」に角田出身者を登場させようと思い、インターネットなどで調べていたところ、佐藤氏の存在を知りました。何せノーベル賞クラスの研究者です。「こんな人がいたんだ、角田にも」と自分が興味を持ち、少しずつ取材を進めました。東根自治センターにある郷土史の冊子に経歴などが掲載されており、大変参考になりました。ところが、佐藤氏の医師としての活動の場が仙台で、亡くなられてから約50年が経過していることから、佐藤氏と実際に会ったことがある人が見つかりません。記事には佐藤氏の人柄なども盛り込む必要があります。詳しいとされる東根の方も、今年初旬にお亡くなりになっていました。それでも東根で聞き込みを続けたのですが、「亡くなった父親なら知っていたかもなあ。自分は分からない」との反応が続きました。 取材が壁に当たり「別の人を取り上げようか」と諦めかけました。しかし「ここで新聞に佐藤氏を載せなければ、この先、誰にも功績が伝わらなくなる。それはもったいない」と考え、もう少し東根で粘ることにしました。そうする中で、佐藤氏の長男が暮らす仙台の住所を知る方と会い、取材を一気に前へ進めることができました(その住所に行ってみると佐藤氏の親類方だったのですが、長男の自宅はすぐ近くでした)。長男も元医師。94歳で記憶ははっきりとしておられました。取材に応じていただき、この場を借りて感謝を伝えたいと思います。東根の方々にも改めて御礼申し上げます。  記事は「佐藤は東根村にも病に苦しむ人があれば、仙台から診察に駆け付けた。故郷の風景を自身の原点として胸に刻んでいたに違いない」と締めくくりました。今後も角田から数々の人材が羽ばたいていくことと思います。故郷が出発点であることを忘れず、精進してほしいとの気持ちを込めました。佐藤氏の記事は、若い世代にもぜひ読んでもらいたい内容となりました。 またいずれ「先人の足跡」の当番が回ってきます。取材は大変ですが「角田にいた、こんな人」に出合えるのであれば楽しみです。


佐藤基氏について取材中の8月に撮影した東根地区

稲刈りを終えた田んぼが広がる10月の東根地区