2019/8/1UP


羽生マジック

 見込みが外れました。羽生結弦選手の田んぼアートのことです。角田市高倉の「西根田んぼアートを楽しむ会」が手掛け、6月下旬辺りから形が見えてきました。田植え前は、イメージ図にほぼ近い80~90点ほどの出来にはなるだろうと思っていましたが、どうやら違ったようです。  100点に近い完成度ではないでしょうか。稲のリンクを滑走しているかのように躍動的で、笑顔もくっきりと浮かび上がりました。ロケットと阿弥陀如来坐像も迫力や神々しさを高めています。  紛らわしい言い回しで採点し、申し訳ありません。田んぼアートの出来具合が、羽生選手の演技そのものと重なって見えたので、こうした言い方になりました。羽生選手が大舞台で高得点を出すのは当然。すごいのは、こちらの想像を超えたレベルの成績を収める点です。田んぼアートにもそんな印象を抱きました。稲に「羽生マジック」の御利益が降り注いだかのようです。通常は「羽生(はぶ)マジック」として将棋の羽生善治さんを指す言葉ですが、今回はあえて「羽生(はにゅう)マジック」として使わせてください。  見学者の数も羽生マジックのたまものです。見頃がいつぐらいになりそうかチェックするため、水田に何度も通いましたが、稲の成長につれて見学者もぐんぐん増えました。車が次々とやって来て、展望台にも人が入れ替わり立ち替わり上っています。これも想像していなかった光景です。7月上旬には車を運転して埼玉県新座市から来たという女性がいました。羽生選手が表紙の観光ガイドブック「仙台巡り」が仙台市内で配られるので入手しに来たそうです。その足で角田まで車を運転して来たとのこと。別の日には、熊本から来たという人もいたと聞きました。その情熱にはこうべが垂れます。これからも秋にかけ、羽生マジックの導きで見学者が続々とやって来るはずです。  6月1日に行われた田植えで、取材に応じてくれた亘理町の50代女性も羽生選手ファンでした。「私たちのエールを伝えたいので、羽生君にも田んぼアートを見に来てもらいたい」と熱くコメントしてくれました。その時は「期待したいけれど、来ることはないだろう」というのが率直な感想でした。今は違います。こちらの想定を簡単に超える羽生マジックをいくつか目の当たりにしましたので、「羽生選手の降臨、ひょっとして、ひょっとするかも」と思うようにしています。  思い描いてみました。展望台に上がり、稲で描かれた自分自身を「すごいなあ」と感激しながら眺める羽生選手を。頭を4回転半させて夢のまた夢を想像している感じですが、ぴたりと着氷が決まるような展開もありそうで不思議です。  7月は雨続きで、本当の見頃は8月に入ってからでしょうか。よくよく考えてみると、夏の日差しの下で演技する羽生選手なんて、なかなか見られない光景です。西根の田んぼアートから、しばらく目が離せません。


7月中旬、水田に浮かび上がった羽生選手

田んぼアートのイメージ図