2016/8/1UP
改憲論議の行方に注目
参院選が投開票され、自民、公明の与党、おおさか維新などを合わせた「改憲勢力」が3分の2の議席を獲得しました。戦後70年以上を過ぎ、歴史的な結果となりました。改憲案発議が実際に動き出すかどうか、大きな転換点を迎えることになります。
選挙戦では、安倍晋三首相は憲法論議に触れず、だんまりを決め込みました。第一次安倍政権で国民投票法を成立させ、改憲に関する手続き部分で道筋をつけました。野党転落を経て、民主党から再び政権を奪取した2012年の衆院選で、自公で衆院の3分の2を超える議席を得ました。第二次安倍政権は改憲手続きを定めた憲法96条の改正を図ろうと、改憲案発議に必要な賛成を衆参各院の「3分の2」から「2分の1」に引き下げて改正しやすくしようとしました。これには内容より先にルールを変えるとのことで、「裏口入学」と批判が上がり、96条問題はトーンダウンしました。その後はあまり具体的に憲法論議に触れることなく、今回の参院選を迎えた格好です。憲法審査会の成り行きが注目されます。
今回、消費税増税先送りの判断についても、争点化の回避が図られました。大事な論点を正面から問わずにぼやかし、選挙後に「信任を得た」として重要な判断を下す手法は、「後出しジャンケン」で、疑問を感じざるを得ません。かつて自民党幹事長を務めた古賀誠という政治家がいました。どちらかと言えば、昔ながらの派閥政治家でしたが、古賀氏の座右の書は、マックス・ウェーバーの「職業としての政治家」でした。政治を行うことは悪魔の力と手を結ぶようなことであり、だからこそ、政治家は規範を持たなければいけないといったことが指摘されているといいます。やはり自民党幹事長だった野中広務氏も、強面ですが、戦争や憲法に関しては敏感なセンスを持っていました。昔の政治家はもう少し、権力を行使することに対する畏れを直感的に知っていたように思います。安倍首相が参院選後の記者会見で、改憲案の議論について「いかに我が党の案をベースに3分の2を構築していくか、これがまさに政治の技術だ」と述べましたが、「技術」という言葉に、私自身は違和感と安倍首相らしさを感じました。哲学や理念の次元でなく、小手先で操作する技術のレベルでとらえているように感じました。
参院選中、戦争体験者の話を聞く機会がありましたが、戦争の悲惨さ、過酷さを肌身で知る年代の人々は、一様に「戦争は二度とすべきでない」との思いを抱いていました。南シナ海での中国など国際的な環境は厳しさを増していますが、知恵ある解決を模索し続けてほしいものです。作家井上ひさしの終生の大作「吉里吉里人」は、東北の独立構想であるとともに、日本国憲法を守りたいと思う人々が、日本の行く末を案じて独立を企図したとの筋にもなっています。今回の参院選でも、東北と沖縄は与党の「1強多弱」に「ノー」を突きつけた格好で、象徴的だったと思いました。戦後70年の節目だった昨年、安全保障法制が強行採決されたのに続き、歴史の波がうねり始めているのでしょうか。「史記」を著した司馬遷は、友人を弁護したかどで前漢の武帝の怒りに触れ、宮刑を受けました。獄中に発憤し、しっかりした歴史書をつくることを心に誓ったとされます。権力監視の目で歴史を見詰める姿勢という意味では、ジャーナリストに近かったと言えるかもしれません。非力な身でたいそうな仕事もできませんが、今後の議論の展開に目を凝らしていたいと思います。
西根地区「田んぼアート」