2013/2/1UP
名刺の山
1枚1枚眺めて記憶をひもといていたら、時間がたつのを忘れてしまいそうになった。机の上に無造作に積まれた名刺の山。角田に赴任して以降、取材でお世話になった方々から膨大な枚数をいただいた。まとめるのをしばらく怠っていたので、整理しようと思ったのがまずかった。めくっているうちに回顧タイムに突入してしまった。作業は一向に進まないどころか、しまいにはホルダーにきちんと収められた名刺まで取り出していた。1回しか会ったことがないのかな。どうしても顔を思い出せない。こちらの名刺の裏には、ペンで生年月日をメモ書きしている。年齢を聞く必要があったらしい。同じ人なのに肩書が違う2枚がある。きっと出世したのだろう◆名刺の数だけ出会いがあった。古いアルバムに目を通すような感覚にしばし浸った。名刺そのものだって、たかが紙切れと侮れない。強い個性を放っている。角田であれば高蔵寺やH2ロケットの実物大模型など、市内の観光名所の写真を載せ、地域をPRする人は少なくない。最近では「角田の五つの“め”」というフレーズや、ゆるキャラ「ひかりちゃん☆」のイラストもよくお目にかかる。2カ国語表記や顔写真、似顔絵入りなんて当たり前。まるで履歴書といったプロフィル満載型や、携帯電話のカメラで読み取りできるQRコード付き、ホルダーに入らないような丸い形のものまである◆翻って私の名刺。「ご購読のお申し込みは…」の文言はさすがに外せないけれど、盛り込まれた情報は必要最低限。至ってシンプルで味気ない。初対面の人が少なくなったからか、今でこそ配るペースは落ちたものの、着任当初はすさまじい勢いで名刺を消費したことを覚えている。そして、出会いは名刺の束にとどまらない。名刺や肩書を持たぬ市井の人たちとの交流がいくつもあった。人と会い、話を聞き、伝えるのが記者の仕事だとすれば、会話を深めるための潤滑油、自己紹介の第一歩として、名刺を活用したいと思う◆「あんふぃにだったよね?あれ書いている人でしょう?いつも読んでいるよ」。ありがたいことに角田の街を回っていると、そう話し掛けていただくことが多い。本欄はある意味、私にとって名刺代わりのような存在。なるべく自分のことを理解してもらえるよう、毎回悩みながら、筆を走らせている。