2011/2/1UP


採用試験

 「どうやって新聞記者になったの?」。こんな質問をたまに受ける。「新聞社に就職しましてねぇ…」というのが精一杯で、方法論を尋ねられると、答えに窮してしまう。弁護士や医師には国家資格が必要だし、政治家になるためには有権者の審判を避けて通れない。でも記者は違う。普通のサラリーマン。入社して編集担当の外勤部署に配属されれば、晴れて新人記者の誕生だ◆新聞社への就職は狭き門というイメージもある。だが「コネがないとマスコミ業界には入れない」というのは間違いだ。他の新聞社やテレビ局、出版社の事情は私には分からないけれど、河北新報社に限れば、コネは不要と断言できる。私は大学時代、仙台市に住む読者の一人にすぎなかった。それ以外、会社との接点は思い当たらない。大卒でなければ記者になるのは確かに難しいが、有名大学かどうかは不問といっていい。学部も関係なく、理系出身の記者も意外に多い◆むしろ特殊なのは、採用試験かもしれない。筆記、面接という流れは、一見すると平凡だが、中身はまったくの別物。一般教養の知識を問う筆記試験には、時事問題がずらりと並ぶ。「○○年の流行語大賞は?」「プロ野球の球団、監督の正しい組み合わせは?」など、今思えば、ニュース検定を先取りしたような問題ばかり。河北新報の場合、取材エリアである東北についての知識も試される。前年度の例を紹介すると、「6県の知事の名前、顔写真、発言を結び付けなさい」「岩手・宮城内陸地震で栗原市の震度は?」といった具合だ。河北を読んでいなければ、お手上げの難問だ。逆に熱心な読者なら簡単に解けるだろう◆もう一つの筆記試験が、論文や作文。「格差社会」「政治とカネ」などを扱う論文もあるが、「命」「土」のような漠然としたテーマの作文を出題する社も、かなり存在する。記憶が確かなら、私が河北を受けた年のお題は「白」だったと思う。「白→白髪→父親」と連想し、自分の体験を交えながら父と息子の関係について書いたら、試験を通過できた。もちろん内定までの道はまだ遠く、この後に面接が控えている◆こんなふうに書くと、まるでペーパー試験が得意だったように聞こえてしまうけれど、実は正反対で勉強は苦手だった。筆記試験で落とされた会社は数知れない。でも実際、記者として働いている。最も必要な職業能力は、知識量ではなく好奇心なのだろう。時事問題が出題される理由も、世間に関心のアンテナを張りめぐらせろということだと解釈している。就職活動していた時、出身地にある「北海道新聞」の採用試験も受けた。みちのくで大学生活を送っていた道産子は、故郷への関心が薄くなってしまったのか、“ご当地問題”に太刀打ちできなかった。でもそのおかげで今、角田の地に立っている。