2009/2/1UP
趣 味
◆…誘ってくれる人があって、句会というものに参加してみた。◆…記者というと、文章を書く仕事というつながりから、文学全般に通じているような印象を持たれるかもしれないが、当方に限っては該当しない。小説はともかく、短歌、俳句となると、接点はまるでなし。◆…この句会、メンバーが実に振るっている。最年長は九十六歳の男性。続いて三月で九十六歳になるという女性。さらに八十六歳の男性、最も若くて七十七歳の男性!合計年齢は何と三百五十四歳だ。毎月一度、紅一点の女性宅に集まり、俳句作りをするのを何よりの楽しみにしているという。◆…取材半分、遊び半分のつもりで、どちらにしても傍観者としてお邪魔したのだが、「ぜひあなたもやってみなさい」と勧められてしまった。むげに断るのは大人げないし、かといって教養のなさが知られてしまうのも困る。恥ずかしながら季語もまともに知らないし、歳時記という言葉は知っていても中身など見たこともない。何とか逃げる口実を探したのだが、そこはお年寄りならではの押しの強さに負けてしまい、正直、「嫌だなあ、恥ずかしいなあ」と思いつつ、鉛筆を握る羽目になってしまった。◆…部屋の中をぐるりと見回して、題材を探す。足を温めているこたつ、卓上の湯飲み、差し込む冬日、窓の外に回る風車…。不思議なことに、それまで気付かなかった風景の断面が、
句作りというフィルターを通すことで色々な角度で立ち上って見えてきたのだ。そうか、俳句を作ると、それまで見えなかったものが見えるようになるのか。写真にしても絵にしても、自分を取り巻く世界の見え方が変わるものだ。文字にすることでも同じ感覚になるとは知らなかった。◆…批評の時間もこれまた楽しかった。短冊に書いた句を、手分けして別の紙に転記する。こうすれば、筆跡では誰の作品かわからない。俳句の大先生から私のような素人まで、名前で採点されることはない。そして、全作品を回し読みし、各自が良いと思う作品を五つほど選び、合計得点を付けていく。昼食を挟んで、あっという間に四時間が経っていた。◆…何にしても、趣味を持つというのは素晴らしいことだ。それも、年齢を問わないものがいい。句会では、幼なじみという九十六歳と九十五歳のコンビが、笑いの絶えない楽しい時間を過ごしていた。趣味は生涯の友をもたらしてくれる。生きる喜びも授けてくれる。二人の表情を見ていると、年を取ってから生き生きとしていられるかは、自分次第なんだな、などと考えた。◆…賭け事やTVゲームが趣味というのもあれなので、これからは、俳句作りをやってみようかと思っている。そんなわけで、先日、さっそく歳時記を買いに行った。また三日坊主にならなければ良いが、と思いながら。