2008/11/1UP


火の海

 ◆…「山火事って、本当に怖いんだよ。目の前の火を消していたと思ったら、いつの間にか後ろに火が回って逃げ道がなくなるんだから」。大きな山火事の現場に出動した消防署員から、そんな話を聞いたことがある。今、世界を覆う経済危機の流れとよく似ている。山の一部が焼けているだけだったはずが、いつの間にかすべてが火の海になってしまった。◆…少し前まで、経済ニュースの範囲を超えていなかった。メディアでも、当初は米国発のサブプライムローン「問題」と軽い表現を使っていたが、短期間のうちに「金融危機」へ、そして「世界経済危機」、さらには「大恐慌の再来」という見方さえ飛び交うようになった。麻生首相も先日の会見で、「百年に一度の金融災害とでも言うべき米国発の暴風雨」と表現した。連日、株価の動向がトップ記事として報じられる。先進国の失速を新興国が補い、世界経済には深刻な影響が広がらないという「デカップリング論」を主張する論者がいたのも、今では懐かしいぐらいだ。◆…経済や景気は、上昇と下降の繰り返しで、山があれば谷間もある。おもりをぶら下げた糸をねじってみる。しばらく回転を続けた後、今度は逆方向にまた回り出す。ねじれが大きいほど、逆方向に回る時間も長くなる。今の経済状況もそれと同じだ。「冬来たりなば、春遠からじ」なのかもしれないが、今回の問題は実体のないマネーゲームを繰り広げた欧米の金融機関と、それを許した政府という戦犯が見えてきただけに、「それが経済というものさ」と素直に受け入れる気持ちにはなれない。◆…実際に存在する以上のマネーをウォール街の連中がもてあそび、ばか騒ぎを演じた挙げ句、はじけた泡の大きさに、世界全体が吹き飛ばされた。「貯蓄から投資へ」の流れは基本的に支持するが、一方で、健全な投資など実は存在せず、ギャンブルと同じレベルの世界に過ぎないではとの疑念もぬぐえない。かといって、まじめに貯金をしていても、雀の涙ほどの金利では、インフレになれば価値の目減りは避けられない。◆…ここ数か月、特に10月の株価の動きは異常としか言いようがなかった。日経平均がバブル後最安値を更新し、7000円台をあっさり割り込んだと思えば、一日10㌫近くも上昇し、あっという間に9000円台に戻ったりする。各種の指標などだれも信用せず、流されるまま。笛に導かれるネズミの姿を思い浮かべてしまった。◆…それにしても、と思う。これまで続いていたとされる好景気は、一般市民にとっては何ら実感はなかったのに、これからやってくる不況は相当深刻なものになる予感がする。労多くして実りなし。何と不公平なことだろう。バブル後に社会人になった世代としては、右肩上がりの成長を無邪気に信じていられた時代がうらやましい。そして、企業業績の悪化は、製造業頼みの角田市にとってもさまざまな影響が出てくるに違いない。企業本体の従業員だけでなく、関連企業や市内の商店、市も税収減などで相当つらい時期がやってきそうだ。地獄の釜の蓋はまだあいていない。そんな予測を抱いても、どうしたら良いのか答えが見つからない。