2008/8/1UP


新市長に望む

 ◆…長い戦いが終わった。12年ぶりの新人同士の争いとなった角田市長選で、元市総務部長の大友喜助氏(57)が初当選を決めた。開票日は締め切りまで時間がないため、解説記事や人物紹介などはある程度、事前に「予定稿」という形で用意しておく。初めから結果が見えている選挙なら、本命候補一人分を準備すれば事足りる。ここだけの話だが、正直に言うと、今回は4人分の当選原稿を書いておいた。ある程度強弱をつかんでいたとはいえ、結果がどう出るか本当に予想できなかったからだ。一昔前な ら、事務所回りをして、いわゆる「選挙通」に尋ねて歩けば、投票日のころには結果がある程度読めていた。◆…だが、最近は票読みが難しくなった。投票行動が個別化して、(古い言葉だが)「家長」や地域のリーダー、職場のトップが一声を出しても、そのまま従うわけではなくなっているからだ。必然、開票まで結果はわからない。◆…それに しても、次点との差が約2,700票という大差の勝利は想定を超えていた。投票率が前回を超えたという点と併せ、「読み」が大はずれだったことに、自分の取材力の低さを痛感し、自信をなくした。落選候補のような脱力感も味わった。後日、結果の分析を聞いて回ったのだが、「選挙戦最終盤になってある団体が動いた」、「『報道機関の世 論調査で、ある候補が有利だ』との情報が意図的に流され、その反動で別の候補に票が集中した」、「勝ち馬に乗ろうと最後に特定業界が一本化した」―などの解説が聞かれた。有権者全員に投票の理由を聞くわけにもいかず、「真実」は確かめようもないのだが…。◆…閑話休題。残念だったことが2つある。1つは、本紙の解説でも触れたが、 選挙戦で現市政への総括がなかったこと。12年間の市政では、功績も失政もあった。選挙はその評価をする唯一と言ってもよい機会。市長の後継者を自認するなら有権者にわかる形で旗印を鮮明にすべきだったし、市政を大幅に刷新すべきだと考えるなら的確な批判を聞かせてほしかった。◆…もうひとつは、マニフェストなるものが配られたが、 公約というレベルには達していなかったこと。「努めます」「推進します」という表現の羅列ばかり。考えるに、公約というのは一定期間経過後に、有権者がその公約が達成されたかどうかを容易に検証できるものを指す。例えば、「任期中に人口3万4千人台に回復させる」「2年以内に農業生産額を60億円台に乗せる」など、具体的な数値が 盛り込まれるべきだ。「努めます」では、やってもやらなくても「努力はしました」でおしまい。評価のしようがない。◆…記者ではなく一市民として、新市長に挑戦してほしいことがある。思いつくままに挙げてみる。①子育て支援に力を入れること。スローガンは「県内一、子育てしやすいまち」。まずは小児科専門医を誘致すること。「開業したいが資金がない」という若手の小児科医に、市が医院を建て、低い家賃で貸し出してみてはどうだろう。例えば20年開業を続けたら、家賃をタダにするというなら、来てもいいという医師がいそうな気がする。保育時間の延長や学童保育の拡充などと合わせ、ほかの市町村が追いつけない水準の「子育てのしやすさ」を実現すれば、市外に流出している若年層を呼び戻すことができるだろう。②図書館に手を入れること。自治体の文化・教育のレベルは、図書館を見ればよくわかる。理想は建て替えだが、それが無理なら、奇策かもしれないが、贅沢な建物の割にはあまり役に立っているようには見えない市の総合保健福祉センターを改装して、図書館にしてはどうか。また、開館時間をサラリーマンや学習目的の高校生も利用できるよう、年中無休、午後九時までなどと変更してほしい。運営を外部委託に切り替えて、実践している自治体もある。◆…③黒塗りの高級車を乗り回すようなまねはやめること。金持ち自治体のトップなら許されるかもしれないが、地方自治体という斜陽産業にあって、決して業績の良くない自治体の市長が、市民に痛みを強いながら高級車を維持しているのは、市民の目にどう映るか。黒塗りがずらりと並ぶ市町村長が集まる会合に、「普通の車」で乗り付けてみたとしよう。その清貧さこそが、むしろ市長の威厳を高めるはずだ。◆…④市長報酬を成果主義に切り替えること。以前にも書いたが、報酬カットで浮く金などたかが知れている。それよりも、当人のやる気を引き出す方がいい。初年度は副市長報酬と同等から初め、1年後に市民アンケートなどを実施して「1年間で角田市が前よりもよくなった」と感じる市民が多数を占めれば、100万円ぐらい上乗せする。毎年続けていって、任期満了時にようやく満額もらえるようにする。条例上難しいというなら、後日、社会福祉のためなどに寄付してもいいだろう。「通信簿」を付けることは、市民の政治参加を進める良い機会にもなる。◆…「見る者は見られる」という。市民がよりよい市政を望むなら、市政に対する関心と監視の目を持ち続けることだ。それがなければ、いつしか為政者の目は市民に向けられなくなる。まずはどう角田市が変わっていくか、温かさと厳しさを持って、新市長の手腕を見守っていこう。