2007/12/1UP


あいさつ

 ◆…ぬるいラーメンとか、酸化してえぐいコーヒーとか嫌いなものはいろいろあるが、取材現場で最近どうにも耐え難いのが式典でのあいさつだ。◆…どんな仕事も忍耐は大切だ。耐える能力、待つ心を持つのは社会人に求められるたしなみだとわかっていても、中身のない話を延々と聞かされるのはたまらない。教育テレビの学習番組を無理やり見せられるぐらい苦しい。 そんな時は、修業と思ってじっと目を閉じる。◆…イベントに付き物の開会式。中でもガックリ来るのは、国会議員に始まり、県議、市町村長、議長、地元選出議員ら政治家 のセンセイ方が惑星直列のごとく並んだ時だ。誰が決めたかわからぬ序列に従い、上席の相手に配慮する言葉から始まり、紋切り型の内容が異口同音に繰り返される。「皆さんお忙しい中…」なんて言葉が出て来たら、 「わかってるならやめろよ」とツッコミの一つも入れたくなる。◆…中には、恐らく誰かが書いたであろう作文を棒読みする人までいる。ひどいのになると、 あいさつの文例集の固有名詞だけを入れ替えたような代物さえある。中身がなくとも、自分の頭で考えて話すならまだいい。だが、そのまんまというのはあんまりだ。つまらぬ文章なら読み飛ばせるが、聞き飛ばしは難しいのだ。 「早くやめろ」と殺気を込めた視線を送り続けてみても、気付いてもらえたことはない。◆…許せるあいさつの条件として、@聴衆の知らない事実や話題が盛り込まれているA話し手の語り口が巧みで面白いBその人なりの強い思いが込められている―といった場合が考えられる。Bの例で言えば、スポーツの大会で「けがのないよう注意して」というのはアウト。 それは当たり前の話。せめて、家族や知り合いが不注意から運動中にけがをしたことがあり、本人も周囲も大変苦しんだなど、下敷きとなる体験談があって、だからこそ「けがだけはないように」と訴えるなら筋は通るのだが。◆…「『賓客』を招き、あいさつを頂戴する」。それにしても、なぜかくも不毛な文化が各地で大切に守られているのだろう。本当のところ、それが必要だと考えている人などおらず、去年もそうだったという程度の理由しかないのではないか。 主催者側のあいさつと注意事項の伝達、それに参加者の気持ちを盛り上げる仕掛けが一つ二つあれば十分だ。◆…来賓として招かれる立場の皆さんへ。政治家ならば、名前と顔を売る機会は少しでも多い方が良いにしても、 へたな演説は逆効果。聴衆を引き込むような話ができるか、小泉元首相ばりにワンフレーズでごまかす自信がないのなら、遠慮するのが得策だ。一秒あいさつが伸びるごとに一票失うと考えた方が良いかもしれない。◆…この際、市を挙げて、来賓あいさつの中止に踏み切ってはどうか。来場してもらうこと自体は悪いわけではない。責任ある立場の人物が多くの人々と出会い、話をする機会になるからだ。だが、招待する理由が 「市長さんなり県議さんなり議員さんが来てくれれば、イベントに箔(はく)が付く」という程度の話なら、意味がないからやめてしまおう。週末のイベントであいさつして回るのが、政治家本来の仕事でもあるまい。◆…もちろん、呼ばれて断るのは不可能だというのは理解はできる。だからこそ、市民の側から悪弊をきっぱりと絶たなければならない。私の精神衛生上の理由からも、みなさんぜひご一考を。