2002/11/01UP


撮影今昔

 ◇ノートとペンと同様、決して欠かせない仕事道具の一つがカメラだ。 休日であろうが旅行中であろうが、ほとんど手元から離したことはない。 「奇跡の一瞬を収めよう」なんて下心がないと言ったら嘘になるが、人の話は再現できても、映像だけは決して再現できない。「とりあえず何かあったら困るから」という弱気な心が、 カメラを携える主要な理由になっている。◇今でこそ押せば写るデジタルカメラが導入されているものの、入社当時は新品で購入した一眼レフが仕事の相棒だった。現場に出る前、インスタントカメラしか 使ったことのない私が受けたのはたった一日の写真講習だけ。新人時代には、フィルム一本まるまる使って暗闇ばかりを撮していたり(どうやらフラッシュが同調しなかったらしい)、 果ては良い写真が撮れたと安堵しつつ、昼間にフィルムを取りだしてしまったり(当然、感光してフィルムはお釈迦に)と、笑えないエピソードをいくつも重ねてきた。 ◇その点、デジタルカメラになってからは取り返しのつかない失態は確実に少なくなった。不要なデータを随時消せるから、残りコマ数を気にする必要もない。便利この上ない道具だが、 時々、ふとフィルム時代を懐かしく思い出すことがある。酸味の利いた現像液を祈るように見つめる高揚感、赤色灯に浮かぶ映像に一喜一憂した瞬間|。光や機材の好不調、予期せぬタイミングといった偶然が結んだ映像には、 「自分がその瞬間を切り取った」という実感がどこかにあった。精密機械が生み出す確実性はありがたい。でも、デジタルの怜悧な調和にない、撮影の妙味はそこにあった。