2006/12/01UP


大人の資格

 ◆…原稿の締め切りに、妻の小言、買い物しすぎたカードの支払い、などなど。 日々、胃の痛くなることが多い。だからという訳でもないのだが、先日、胃の内視鏡検査を受ける機会があった。最新機器が試験的に導入されたと聞き、取材2割、好奇心8割といった気持ちで病院を訪れた。◆…「胃カメラは苦しい」という話は耳にしていたが、最近はあまり苦痛を感じずに済むようになっているのだという。胃を見るのだから、口から飲み込むのが自然ではある。ところが、近ごろは管の小口径化が進み、鼻の穴から挿入する方式が広がっている。一番の特徴は、口がふさがれないため、医師と会話しながら検査を受けられる点だ。◆…胃カメラは初めての経験で比較する資格はないが、口をきけるかきけないかという差は大きいと思う。苦しくても何も訴えられないというのは拷問に近い。その不安感が除かれる点だけでも、大きなメリットだろう。医師や看護師の話でも、 経口よりも経鼻の方が苦しさが少ないという感想を持つ人が多いのだという。◆…ただ、体質的に弱いのか、何度か激しい吐き気に襲われた。吐き気をこらえるというのはかなり難しい。例えば、悪酔いして電車の中で戻しそうになっているのに、出すに出せないあの苦しみとそっくりだ。気持ちを落ち着かせるため、「湖のそばに広がるお花畑」なんかを想像してみる。「ちょっと、勘弁してください」と泣き言が出かかったが、次第に慣れたのか何とか持ちこたえた。◆…「まったく問題ないですね」という言葉を期待していたのだが、残念ながらそれでは済まなかった。直径1aほどのポリープがあるというのだ。画像を見ると、胃の壁にへばりついた、なめくじのような盛り上がりがある。「悪いものではないと思いますが…。一応、組織を採って検査してみましょう」。「よくある形」とは若干異なっているそうで、後日、結果を聞きに行くことになった。◆…「ポリープぐらい珍しくない」と思う半面、「まさか」という一抹の不安もよぎる。近親者にがんを患う人が多く、父も50代の若さでがんで亡くなっている。日ごろ不摂生な生活をしているくせに、いざこうなると病気になるのが怖くて仕方がなくなる。◆…誰もが病気になり、誰もが死ぬ。世の中に「絶対そうだ」と言えることは少ないが、これだけは間違いない。 年を重ねるごとにその不安は増していくのだから、自分より年上の人たちはより大きな苦しみに耐えていることになる。そう考えると、お年寄りは「不安との戦い」を乗り越えてきた歴戦の勇者なのだ。そして、自分も病の怖さを考えられるようになりつつある今、本当に「オトナの仲間入り」ができたのかもしれない。