2006/08/01UP


備える

 ◆…7月の中旬まで、支局建物の改修工事が行われた。当初の予想を上回る大工事になり、ご近所の皆さんには騒音や振動、工事車両の駐車などで色々とご迷惑をお掛けしたが、お陰様で無事に工事を終えられた。木造の建物は築30年。社有の建物だが、良く言えば「おおらか」な社風を反映してか、これまでほとんど手入れがされないまま放りっぱなし。外壁の色はくすみ、玄関やテラスの木部のペンキはほとんど剥げ落ちるなど、あばら家という表現がピッタリの状態だったのだが、今回、お化粧直しをして、見た目についてはすっきりと若返った。◆…今回の工事は単なるリフォームではなく、耐震性の強化が目的だった。支局は取材の拠点であり、記者の住宅でもある。災害時に事務所が壊れて使えなかったというのではお話にならない。さらに、本紙の記事では、宮城県沖地震について書く際に「近い将来に発生が確実視される」という枕詞が付き、連載などでも地震への備えの重要さを訴えているのに、支局の建物はと言えば、備えはほぼゼロ。万が一、支局が市内で唯一倒壊した建物だったりすれば、「原稿(言行)不一致」と言われてしまうと思い、本社にさんざん掛け合ってようやく実施してもらえることになった。◆…事前の耐震診断では、地震で簡単に倒壊するほどではなかったにせよ、「倒壊の恐れあり」との結果。補強工事として、@柱や梁へ引き抜き防止金具の取り付けA筋交いの増設B壁にボード取り付けC窓の一部を埋めて壁にする―などの工事が行われた。まずは一安心といったところだが、気に掛かることがある。◆…角田市では、木造住宅の耐震診断について補助を行っている。本年度の募集は20件。7月から募集を始め、8月4日時点で、応募はまだ2件という。費用は14万4000円かかるが、本人負担は8000円で済むから、お得な制度と言えるだろう。◆…しかし、診断への応募がそもそも少ない上、診断を受けても補強工事まで行うケースは多くないという。市によると、04、05年度に募集した補強工事の補助制度(上限30万円)には、申請は7件のみ。診断を受けて強度不足と指摘されても、工事費までは用意できない。ならば、診断そのものも受けない方が精神衛生上良い。そんな実情も耳にした。◆…1981年の建築基準法改正前の木造住宅は危険があるとされるが、そのころ建てられた家の住人は高齢化し、現役を退いている人も多いだろう。数百万円単位になる工事費を負担できる世帯は決して多くはないはずである。災害時に犠牲になるのは、過去の例を見るまでもなく高齢者が多い。一番守られなければならない人が、一番弱い場所にいる。そんな矛盾を抱えたまま、「その日」が近づいている。◆…「格差社会」が現実のものになったと言われている。安全までもが、お金の有無で「格差」にさらされている。そんな現状を考えると、支局の改修が終わったと言って、無邪気に喜んでもいられない。