2006/06/01UP
明るくない農村
東北で野菜価格高止まり。河北新報朝刊にそんな記事が掲載された日、ある農家の男性から電話をもらった。「文句をではないんだけど、ちょっと話を聞いてもらおうと思って」。◆…記事では、「野菜の入荷が減って昨年よりニンジンが3、4割高、キュウリが2割高」などと伝え、安売りセールで集客を狙うスーパーなどの動きも紹介していた。この男性は「昨年に比べれば高値でも、何年かの期間で見ればそれほどでもない。テレビや新聞で『高値』というニュースが出ると、消費者に買い控えのムードが広がり、実際に売り上げが落ちてしまう」というのだ。◆…それにつけても、農業もまた、「気楽な商売ではない」と思う。豊作なら価格が下がって利益が出にくくなり、不作なら高値であっても収量が減ってこれまた収入減となる。さらに病害虫発生や天候不順、働き手の病気などで「収入ゼロ」という事態もあり得る。ハイリスク・ローリターンの商売の代表格だ。◆…先日、デフレ経済の5年間を追ったテレビ番組を見た。あるデパートでは、5年前のスーツの売れ筋は1万8000円だったが、現在は6万円台まで上がっている。また、数十万円もするブランドバックも 好調な売れ行きだという。「お金はあるところにはある」と言ってしまえばそれまでだけれど、対照的な光景が印象に残った。◆…本紙朝刊で1月から掲載している連載記事では、新規就農の人たちを数多く紹介した。非人間的な都会の生活に見切りをつけ、自然の中で「農的な暮らし」を望む人々が東北の農村に数多くやってきている。生き方としては素敵だと思い、うらやましくも思うが、実際のところは「明るい農業」というイメージだけではないようだ。自給自足するには何の問題もないにしても、子どもの進学や医療費、地元での付き合いには現金収入も必要だ。 農業だけで生計を立てるのは実際にはかなり難しく、アルバイトに励む人も少なくない。また、商業的に農業をやっている農家でも、一定水準以上の収入がある農家は一握りでしかない。◆…農産物の価格はそもそもの水準が安すぎるのだろう。生産コストの安い輸入品との競争があり、出荷量の変動に伴う「相場」によっても価格が形成されてしまうからだ。いきもの相手の仕事だから、生産調整や出荷時期をずらすなどしても限界がある。 一方でブランド品や高級品はといえば、ほぼ売り手の意向で値付けが行われ、高ければ高いほど、値引きがないほどありがたがられる。農家ならずとも、そこはかとない矛盾を感じずにはいられない。◆…買い物をする時には、高いか安いか自分なりの基準によって判断している。けれど、この心の中の物差しは結構いいかげんだ。贅沢品や嗜好品には「たまのぜいたくだから」とハードルを下げるのに、買い物で野菜売り場に行けば、つい「一円でも安く」 と価格重視で商品を選んできた。農業の現場の事情に思いを巡らせてみると、「自分の中の物差しを見直さなければならないな」という思いが強くなっている。