2006/04/01UP


3万円

 ◆…先日閉会した角田市議会の3月定例会で、ちょっとした「事件」があった。市当局が提案した「出産祝い金」を廃止する議案が全会一致で否決されたのだ。祝い金は、第3子以降の出産に対し3万円を贈るというもの。議会事務局によると、角田市議会で議案が否決されるのは、平成11年以来のことだという。◆…議案というからには、賛成もあれば反対もあるのが当たり前。けれど、市町村の議会では事前の調整の段階で議会側の情勢を探り、否決濃厚となれば議案を取り下げたり、それ以前に提案を断念したりするケースが多い。ゆえに、実際に否決までいったというのは「よくある話」とは言えず、議会と提案者である市長との関係を見る一つの指標といえる。◆…議員からは反対した理由として「少子化対策が問題になる中、流れに逆行する」といった意見や「当局の説明が不十分だった」などの声が聞かれた。 別の見方をすれば、市長が提案した議案を否決するのはメンツをつぶすことにほかならないから、市長へ投げた「けん制球」という意味もあるのかもしれない。◆…市は、少子化対策の一環として新年度から実施を決めた妊婦健診補助拡大と不妊治療費補助拡大の引き替えとして、祝い金を廃止する考えだった。廃止が否決されたので、今後は新制度と祝い金が併存する格好になる。◆…政治的な事情はさておき、祝い金制度自体はもはや時代遅れで、私自身は廃止を提案した市を支持したい。そもそも行政が祝い金を贈る意味が分からない。家族で1、2回外食して消えてしまうような額を目当てに、「3人目を作ろうか」と考える親がいるとでもいうのだろうか。議員からは「市民の事業継続の要望が多い」という意見も聞かれたが、それはそうだろう。「金がほしいかほしくないか」と問われれば、答えは決まっている。◆…3万円と少額なので、ささやかなお祝いの気持ちという考え方もあろう。しかし、市の財政が厳しさを増す中、政策的な効果がまったく望めない制度を残しておくほどの理由にはならない。例えて言えば、家の電気をこまめに消すようなもの。額は小さくともその姿勢が重要なのだ。◆…以前、何かの事業が成功したとかで、会社から金一封が出たことがある。喜んで中を開けたら、五百円玉が一つ。「無策だなあ」と思わずにいられなかった。ばらまけばコーヒー1杯で消えてしまうような金だが、集めて使えばそれなりの使い道もあっただろうに、と。今、その時の気分を思い出している。