2005/03/01UP


未来の視点

 大きな社会事象は最良の取材対象になる。読者の関心は高いし、反響も無視はできない。仕事量で言えば単純に労働時間が増えるわけで、時には肉体的、精神的な苦痛も伴う。しかし、それ以上に社会の関心事を伝え、ともに考えながら進む喜びは大きい。家族には迷惑かもしれないが、それは記者としての至福を感じる時でもある。◇管内で言えば、まさに自治体の合併がそれに当たる。国の施策もあって全国的にはもはや珍しい事柄ではない。それでも、地域にとっては半世紀に一度迎えるか迎えないかの変革期。同種案件が県内で進んでいることもあって紙面上の制約は大きかったが、報道タイミングだけは外すことがないよう、最低限のデータ報道、状況リポートに努めてきたつもりだ。自治体の枠組みが変わること以上に、将来のこの地域を住民がどう思い、白紙の地図にどんな自治図を描くのか。その過程を並走できることが何よりも楽しかった。◇私たち記者、特に地元紙を衝き動かす動機もある。時を経て、社会事象が歴史の一部になったとき、「当時の報道」に焦点を充てられることが多い。そんな20、30年後の未来の読者の視点を意識し、歴史の検証に堪える記事を書きたいー。記者としての力量不足を認めつつ、地元紙の矜持だけは忘れないよう心がけた。そんな1年かかりの角田市、丸森町の合併劇もいよいよエンディングが近いようだ。破綻に終わるのか、大団円を迎えるのか、筋書きはどこにもない。ただ、地域の転換期に偶然にも立ち会った一人の支局記者として、その幕引きだけは冷静に見届けようと思っている。