2004/05/01UP
原稿2万km
先日、自家用車の走行距離が12万kmを突破した。2年半前に6万5000kmの走行で購入した中古車だから、1年当たり2万kmちょっとの使用距離ということになる。1日当たりの平均値を算出したら60km程度と出た。意外に少ないとも思ったが、取材車両も兼ねているから年中角田市、丸森町の管内にいて、遠出する機会がほとんどないことを生活を考えればそんなものかな、という気になった。管内を半径15kmの円でイメージすれば、ほぼ角田、丸森の外周を3分の2ずつ走行している勘定だ。◇農道から舗装のない山道、河川敷の荒れ地まで、とにかくろくな手入れもしないのによく走ってくれる。仕事の途中にかじりついたパンくずやらコーヒーの空き缶、新聞紙が無造作に放置された車内はおせじにも快適とはいえないけれど、フロントガラスごしに流れる風景に心揺さぶられることも少なくない。「本当の旅行者は移動そのものも楽しむものだ」なんてことが書いてあったのは井伏鱒二の本だったろうか。霞がかった遠景に春を予感し、鮮やかな緑色に染まった水田に初夏の到来を知る。徒歩での体感には到底およばないものの、四季を失った都市部に比べれば、車両での移動も十分な季節感を味あわせてれる。◇運転していて記憶に鮮明なのが、冬期、雪に埋もれる季節の小田地区の浄水場付近の道路。丸森町の大張方面からの下り坂が落ち込む周囲の、森閑とした山が眼下に迫る景色には毎年ハッとさせられる。辺りに民家はない。モノトーンの、水墨画のように神々しいその姿が、厳しい自然と対峙する緊張感を呼び覚ましてくれるからかもしれない。◇支局に赴任して既に3度の梅雨を走り抜け、同じ回数の雪道に神経を尖らせた。時に事故現場へ向かうため、時に四季の風景をカメラに納めようと。既に車両のシャーシはきしみ、高速走行時の振動も目立つ。買い換えも考えたが、年間2万kmの移動が原稿用紙を埋めてくれたことを考えれば、簡単に手放す気にもなれない。パソコンで原稿を打ち込むのも仕事なら、ハンドルを握るのだって業務のひとつには違いない。せっかくの連休。砂煙に汚れた車体を久々に洗い、言葉でもかけてみたい気になってくる。「頼むぜ相棒、今年も季節を走ろうな」。