2022/3/1UP
人口目標
「角田市の隣に仙台市を誘致する」。角田の人口を増やすにはどうすればいいかと問われれば、こう答えます。角田の弱点は都市圏から離れている点に尽きるでしょう。宮城県の中心が仙台である以上、こればかりはどうしようもありません。こうした地域の人口減対策に一筋縄でいくような手法はなく、子育て支援、交通の利便性向上、働く場の確保、宅地整備などを地道に進め、少しでも多くの人に住むまちとして選んでもらうほかないのが実情です。
市町村長の政治姿勢や行政手法を検証する本紙宮城県版連載「手腕点検」で黒須貫市長を取り上げたり、2022年度一般会計当初予算の発表を取材したりする中で、角田市が新年度にスタートさせる第6次長期総合計画にたびたび目を通しました。この中に、市の将来推計人口を示すグラフがあります。65年の市人口推計は現在より1万6000人ほど少ない1万1577人です。市はこうした縮小社会の中でも何とか踏みとどまろうと、同年の人口目標を約1万5000人と掲げています。角田支局に赴任した3年前には、「定住人口3万人確保」のスローガンがちらほらと聞こえましたが、最近は全く耳にしなくなりました。現実路線に切り替えたことがうかがえます。
第6次長期総合計画の中には、市の特性を伝える図表データが多く掲載されています。通勤の状況に目が止まりました。角田市は市外へ通勤する市民より、市内へ通勤する市外の住民が多いことを示しています。これは隣接する市町には見られない傾向です。意地悪な見方をすれば、角田は働く場にはなっても、住む場所には選ばれない市だということです。これでは仮に角田市が大型の企業誘致に成功しても、人口が増えて喜ぶのは周辺の市町ということになります。実際、ケーヒン(現日立アステモ)が工場再編で角田工場に機能集約する方針を決めた十数年前、転勤してくる従業員に定住してもらおうと市が各種支援策を打ち出したにも関わらず、十分な成果には結び付かなかったことがありました。当時の角田支局員は「ケーヒン工場拠点化 角田市、定住支援策空振り 転勤従業員の希望、仙台圏の人気高く」の見出しで記事を書いています。
十数年前に赴任していた若柳支局(栗原市)の管内で同様の傾向を見ました。トヨタ自動車グループのセントラル自動車(現トヨタ自動車東日本)が相模原市から大衡村に進出するにあたって、かねて若柳地区で操業していた同社工場が拡張されることになりました。従業員も多数が若柳地区の工場へ異動となり、首都圏から移り住みましたが、若柳地区ではなく周辺の規模が大きめの市に居を構えた人がほとんどでした。大型のショッピングモールがあったり、量販店が並ぶ国道が走っていたりと、少しでも都会の雰囲気が強いまちに目が向いてしまうのでしょうか。買い物は確かに便利かもしれませんが…。
角田は国道4号から外れ、大型店もなく、都会の匂いを感じさせる地とは言えません。それでも買い物に不便だとは感じません。スーパーやコンビニ、飲食店が多く、普通に生活する分には特に困ることもないまちだと思います。大型店でしかできない買い物をしたければ、国道4号沿いの店や名取のショッピングモールにも車で短時間です。気分転換をしようと思えば海も山も近く、ちょっとした小旅行を楽しめます。仙台に近い市から角田へ一家で移り住んだ方と話をしたことがあります。都市部にはない角田の長所を「自転車に乗って親子で買い物に行けるところ」と語ってくれました。小旅行気分は市内でも日常的に味わえると言えます。角田の立派なアピールポイントではないでしょうか。
もちろん買い物しやすいというだけで住んでもらえるわけではありません。冒頭で書いたように子育て環境なども大事です。第6次長期総合計画でも子育てしやすいまちづくりを主要課題にしています。しかし親の立場で子どもの進学を考えれば、学校の選択肢が多い仙台近郊がいいのでしょう。だからと言って克服するのが難しい弱点ばかりを数えてアピールに尻込みしていると、「43年後の人口1万5000人」の目標もすぐに遠のきそうです。市役所で取材していると、職員が自虐的に「角田市はPR下手だから…」と言うのを聞くことがあります。目標達成に向け、こちらの弱点は今こそ克服してほしいものです。
角田市にとって有利な点もあります。市外から市内へ通勤する住民が多いことです。ケーヒンの記事では、当時の大友喜助市長が「長く勤務するうちに角田市への定住を考えてもらえるかもしれないので、長期的な視点で戦略を練り直す」とコメントしています。新年度以降、再アピールはあるでしょうか。