2020/3/1UP


なんでもや

 「角田にはスーパーが多い」。市内にずっと住んでいる人も、新しく住み始めた人も口をそろえます。昨年9月下旬には角田橋のたもとにオープンしました。支局の近くにも開店から1年と数カ月ほどの店があり、よく利用しています。  レジに並ぶと、お年寄りの女性が店員と世間話をしていることが時々あります。代金を支払った後もおしゃべりはしばらく続きます。客側が話し掛けており、店員はこちらをちらりと見て申し訳なさそうな表情。後ろからは「早くしてくれよ」と言いたくもなります。  それでも、ぐっと言葉を飲み込み「しょうがないな」と苦笑いで済ませるようにしています。人口減少や高齢化が進む地域では、お年寄りの孤立を防ぐためにも外でのおしゃべりが必要だと思うからです。その役割を果たせるのが、買い物の場ではないでしょうか。もちろん店員だけが話し相手ではなく、客同士が買い物かごを腕に提げながら談笑することだってできます。  東日本大震災後の南三陸町で取材したボランティアの活動を思い出しました。仮設住宅で暮らす被災者の買い物代行をしていたグループです。津波で町内には店がなくなったため、買い物に行く足がないお年寄りたちが利用していました。特徴的だったのは、頼まれた品を各戸に届けない点です。屋外に並べて取りに来てもらう形にしていました。被災者にもお年寄りが多いので、孤立しないよう外に集まって親交を深めてもらうためです。ボランティアも笑顔で話し相手を務めていました。こうした交流の場は、被災地に限らず各地で必要とされています。  隣の丸森町大張地区もその中の一カ所でしょう。唯一の日用品店「なんでもや」が昨年から休業中です。17年前、住民出資で開業しました。地区内で日用品や雑貨を扱っていた店の閉店が相次いだため、買い物できる場を残そうと住民が寄せた協力金が原資です。  過疎地の注目すべき取り組みとして、マスコミにも多く取り上げられました。このため町外からも多くの来客があったのですが、東京電力福島第1原発事故の影響で客足は激減。経営は右肩下がりとなり休業、地区に買い物できる店がなくなった、と昨年5月に河北新報の社会面で大きく報じました。  休業中の店内をのぞかせてもらいました。陳列棚が並ぶ奥には茶飲み話スペースがあります。地区のお年寄りたちが買い物ついでに一服し、店員も交えて会話に花を咲かせている光景が目に浮かびました。店の運営者も「大張の地域コミュニティーのために、なんでもやは必要」と再開への手だてを探っています。  取材で支局から大張方面に向かう際、角田支局に赴任してから数カ月間はカーナビが示す通りに国道113号や349号を通っていました。その後、小田や西根から大張へ入れることを知り、こちらの道も頻繁に行き来するようになりました。角田と大張の意外な近さに驚いたものです。台風19号豪雨で小田川沿いの県道は寸断されましたが、現在は通れるようになっています。  工事は今も続き、道幅が細い箇所がありますが、角田から大張に入ると、お互いが「ご近所」であることを再認識できます。角田に買い物の場が多いからこそ、隣町の問題を角田の人たちにも考えてもらいたいと思います。


休業している「なんでもや」

工事が続く小田の県道