2019/6/1UP
斗蔵山に登る
勘違いしていました。斗蔵山を「とくらさん」ではなく「とぐらさん」と読んでいました。4月19日にあった道の駅かくだのオープンセレモニーで、とくら太鼓が披露されましたが、 太鼓をたたく子どもたちの衣装に「とくら太鼓」とあるのを見て「とぐらではなく、とくらだったのか」と知りました。しかし、あんふぃにの先月号ではうっかり「とぐら太鼓」と書いてしまいました。パソコンのキーをたたく指先まで注意が届かなかったようです。その後、誤りに気付き、印刷段階で修正してもらいました。関係者の皆さま、大変失礼いたしました。
新聞記者をしていると、こうしたミスとは隣り合わせです。反省も必要ですが、悔やんでいてもしょうがないので、これも斗蔵山との縁、登るいいきっかけができた、と思うことにしました。地方に勤務すると、移動はほとんどが車になり、歩くことから足が遠のきます。このままでは、一回も斗蔵山に登らず赴任期間を終えることもありえます。これでは角田を深く知ったことにはなりません。
5月中旬、斗蔵山へやって来ました。快晴で新緑がまぶしく、野鳥のさえずりが耳に心地よい絶好のハイキング日和でした。しかし、今回は反省をきっかけとしての山歩き。「浮かれて歩くなよ」。行く先々にある大木や石段がそう語りかけているようでした。
それにしても、各地方にはそれぞれ、そこに住む人が誇りに思う山があるものです。2008~11年度に勤務した栗原市の若柳支局管内では、栗駒山がそれでした。冬季は積雪で山の中腹から通行止めになるので、毎年5月半ば以降に山開きがあります。赴任初年度、取材を兼ねて登りました。栗原に住んで2カ月半でしたが、取材で知り合っていた人たちと登山道や山頂で会い、声を掛けていただきました。山開きが楽しみで、毎年登っているという人も多くいました。
その直後の6月14日、悲しい出来事がありました。栗駒山付近を震源とする岩手・宮城内陸地震です。山あいの温泉旅館が土石流に巻き込まれるなどし、多くの死者・行方不明者を出しました。栗駒山は各所で地滑りがあったため入山禁止となり、翌年の山開きは中止でした。入山できるようになったのは10年5月。2年ぶりの山開きは、栗駒山を愛する多くの人たちの笑顔であふれていました。しかし、翌年3月には東日本大震災が発生します。この時は栗駒山に大きな被害はなく、山開きは例年通り5月にありましたが、沿岸部への応援取材のため、登山はできませんでした。心残りになっています。若柳支局にいた4年間は、仕事の半分が災害関連だったと言ってもいいくらいです。
そんなことを思い出しながら歩き、山頂の斗蔵寺へ到着しました。観音堂や神社を巡り、帰り際には住職さんに角田のいろいろな話をうかがいました。
山を下り、車で帰る道沿いでは、水を張った田んぼが陽光を受けてきらめいていました。地域にとっては例年通りの何気ない田植えの風景かもしれません。しかし、そうした日常を毎年変わらず眺められることは、掛け替えのない財産だと思います。地元の慣れ親しんだ山にいつでも登れることも同じです。自分の勘違いを省みるのが目的だった斗蔵山登りは、角田の平穏無事を願う機会にもなりました。
斗蔵神社
斗蔵寺観音堂