2016/12/1UP


トランプ・ショック

 米大統領選でドナルド・トランプ氏が、メディアの予想を裏切って当選しました。驚きの結果は、英国の国民投票でのEU離脱選択とともに、反グローバル化と、大国の内向き志向を現すものとして受け止められました。トランプ氏の移民排斥論や女性蔑視発言など、スーパーパワーのリーダーとしての資質には疑問を感じざるを得なく、戸惑いを覚えました。しかし、それだけにグローバル化への反発、広がる経済格差の現状への低所得・中間層の不満の大きさを物語るものと考えられ、全世界的なポピュリズムの浸透に、やや戦慄を覚えます。環太平洋経済連携協定(TPP)が事実上お蔵入りとなり、農業への影響は分からなくなりました。身近では、誘致企業工場が大きなウエイトを占める角田市にとっても、法人市民税収に響いてくるかもしれません。  市商工会青年部が先日、中学生以上20代までの若者を対象に、「角田わかもの議会」を開きました。10人が参加して、自由に角田のまちづくりについて話し合ったのを、取材しながら横で聞かせてもらいました。18歳への選挙権年齢の引き下げについても意見発表があり、大変しっかりしていて興味深かったです。「若い世代の投票率が低いから、若い人への政策が少なく、高齢者への政策が手厚くなっている」「若い人が政治に関心を持つためには、選挙権年齢の引き下げは良かった」などなど。18歳選挙権に関連しては、県教委が今春、校内での取材規制を求める通知を出したことで、高校生が政治についてどう考え学んでいるのか、地域には伝わりにくい状況になったと言えるでしょう。この件に関する生徒たちの声を角田で聞くのは、私は初めてでしたが、生徒たちの賢さ、社会に対するみずみずしいセンスに触れることができて、新鮮でした。  格差などの社会矛盾を、かつてはマルクス主義を軸とする「信条」「イデオロギー」で分析、解決しようとしてきた時代がありましたが、今は「エリートか、そうでないか」の対立構図になった。トランプ・ショックは、むき出しの現状を象徴的に示したものと思います。若者は、階層秩序の影響を受けやすい層です。高い教育を受けられる若者は良いが、そうでない人は循環から抜け出しにくい。機会の格差が拡大し、固定化を強め、数%のエリートに入れるか選別はますます厳しくなっているようです。  フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドさんは、テロに直面したフランス社会を分析した「シャルリとは誰か?」で、人種や宗教の違いを超えて話し合える、人権宣言を掲げたフランスの平等が消えかけている現状を憂慮しています。学歴や所得格差の拡大で、貧困の改善がなおざりになっていることを背景に上げています。中でも興味を引いた分析の一つが、宗教がかつて力を持っていて、今は脱宗教化が進んでいる地域は、移民などによる社会的流動性に弱いという内容です。信仰や伝統などアイデンティティの拠りどころを失った地域が、危機にもろいと考えられます。日本では、村の鎮守のような土着の宗教性が、拠りどころとして大きな役割を果たしていましたが、都会への流出、人口減少でコミュニティーは崩れつつあります。角田にも今後、グローバル化の波が厳しく押し寄せてくると思われます。拠りどころの観点からも、地域の文化再生について考えることが重要でしょう。


火災予防を呼び掛けるミネ幼稚園の園児たち