2011/9/1UP


ホーム&アウェー

 「地元・宮城(仙台)の河北新報と申します」。東日本大震災の被災地には今も、ボランティアや慰問に訪れたり、支援物資を届けたりする人たちの姿が絶えない。全国各地、場合によっては海外からもいろいろな人たちがやって来る。河北新報を知らない可能性が高い取材相手には、自己紹介を兼ねて、こんな風に話を切り出す。取材、販売エリアは東北6県なのだから、正確には「東北の河北新報」と言わなければ駄目なのだが、便宜上「宮城の河北新報」と説明することが多い。本社所在地が宮城というのは事実だし、その方が相手も混乱せずに理解してくれる。発行エリアを基準にすると新聞は全国紙、県紙などに分けられ、河北新報はブロック紙に当たる。中日新聞、西日本新聞などもその仲間で、県をまたいで展開する規模の大きい地方紙が並んでいる◆ただし河北の場合、同じ東北でも宮城とそれ以外の5県では、知名度に差があると思っている。例えば、かつて勤務していた秋田県の横手支局。さすがに自治体や警察、企業などで「どこの新聞?」と首をかしげられたことはないものの、一般の人に対しては「宮城の新聞の…」と説明することが少なくなかった。秋田県にも地元紙があり、住民には大きな存在だ。その中に割って入り、知名度を高めるのは並大抵の努力では難しいだろう。角田支局をはじめとする宮城県内が河北にとってのホームなら、他の5県は完全にアウェーなのだ◆ではどちらが大変か。仕事がしやすいか。サッカー選手なら、全試合をホームで開催したいと言うかもしれない。でも河北の場合、一概にアウェーがやりにくいとは限らない。確かに青森、秋田などで河北について一から説明するのは面倒だし、角田にいれば(おかげさまで)知られているという前提で話を進められる。逆にホームである故、大勢の読者の視線、プレッシャーを感じながら取材するという側面もある。10回特ダネを書いたとしても、ライバルの他紙に特ダネを1回書かれたらおしまいという世界。鉄壁の守り(きめ細かく地域のニュースを紹介する)をこなしつつ、積極的に点を取りにいく(特ダネを書く)のがホームでの戦術だ。一方のアウェーでは、失点(地元紙に特ダネを書かれる)を重ねて敗北が濃厚になっても、珠玉の1ゴールを目指す(得意分野のネタを追い求める)戦い方ができる。ある意味で自由気ままだ◆苦労の質はそれぞれ異なるけれども、どちらも経験できる新聞社というのは珍しいのではないか。記者の立場から見て、河北新報の魅力の一つだと思う。きっと「宮城新聞」や「仙台新聞」では味わえない。そうは言っても、今はホームゲームが一番。その妙味をかみしめている。どんなに重圧がのしかかろうと、サポーター(読者)が多い方が燃えるに決まっている。