2011/7/1UP
ぶらさがり
東日本大震災後、被災地入りした閣僚らを取材する機会が増えた。これまでは地方紙記者の立場で言うなら、衆院選などの大型国政選挙がある時、候補者の応援に訪れた党首や大臣の熱弁を聞く程度だった。それが今では「○○大臣が○日午後○時、津波被害を受けた○○を視察します」と、情報が頻繁に支局に届く。まるで週替わりメニューのように、作業着姿のお偉いさんたちが現場を眺めにやって来る。その度に案内して回る地元の首長たちも大変だろう。それでも被災地復興のため、視察の成果を政策に反映してくれるのであれば、文句を言うつもりはないのだが◆与党執行部クラスにもなれば、在京マスコミの政治部記者たちが同行する。そんな輪に地元の記者が加わると、不思議な慣習が気になって仕方がない。その代表格が「ぶら下がり取材」だ。正式な記者会見ではなく、政治家や経済人らが移動中、もしくは立ったまま質問に答える即席の手法のこと。官邸でぶら下がりに応じる首相の姿など、テレビでも目にすることが多く、なじみがあるかもしれない。手軽なので双方に便利な反面、常態化には疑問がある。「ぶら下がり」という言葉には、記者側の「教えていただく」という卑屈な姿勢、「忙しいけれど仕方がないから応じてあげる」という相手の傲慢(ごうまん)さを感じる。時間が短いうえ、途中で一方的に打ち切られることもあり、対等な質疑には程遠い◆内陸部の被害状況を見ようと、民主党の岡田克也幹事長が6月上旬、白石市入りした。民主党県連がマスコミに売り込んだ視察なのに、「岡田幹事長への取材はぶら下がりで」と指示した。無責任な情報発信と受け止めてしまう。地滑りなどの内陸被害に与党としてどう対応するのか、地域の関心は高かったはず。きちんと会見の場を設け、岡田幹事長が視察の感想と今後の方針を語るべきだった。まあ、訪問のタイミングも悪かった。菅直人首相が退陣の意向を示し、衆院で内閣不信任決議が否決されて数日後。ぶら下がり取材では案の定、政局絡みの問題に質問が集中した。地震被害に割かれたのは、冒頭のわずかな時間に過ぎなかった。心の中で「永田町に帰ってからにしてくれ。政治家もマスコミも、被災地に政局を持ち込むな」と叫んでしまった。角田でも立ち話や雑談から記事が生まれることはある。だがそれは「ぶら下がり」と言わない。対等な関係が前提になっているからだ◆もう一つ、震災後に増えたのが芸能人取材。避難所での炊き出しや物資提供、持ち歌の披露と、被災地訪問の内容はさまざまだ。取材、掲載しなかったものを含めると、相当な人数が沿岸部に出入りしたが、売名行為にならないよう注意して執筆するなど、違った意味で気を遣う。そして、記者も公私混同してはならない。目の前の芸能人にワクワクする気持ちを抑えながら、淡々と取材する。これが一番難しい。