2009/10/1UP


迷い道のススメ

 わが愛車にはカーナビがない。価格の問題もないわけではが、嫌いだからあえて付けないと言ったほうが正確だろう。 カーナビに頼るのは、旅先でレンタカーを利用する時くらいかもしれない。本来なら旅行であっても邪道ではないかとすら思う。 知らない道路を走る時に便利なのは間違いないし、渋滞状況も手に取るように分かる。住所や電話番号、施設名さえ分かれば、 目的地まで簡単に連れて行ってくれる。だけどなぜ、機械に指図されなければならないのか。少しでも道をそれると軌道修正を促される。 車に「乗らされている」ようで気分が落ち着かない。だから家で地図とにらめっこして、自力でたどり着けるようにしっかり予習してから出掛ける ◆角田に赴任して半年が経ち、走ったことのない道は日に日に少なくなってきている。それでも初めて行く場所には道路地図や住宅地図が欠かせない。 車を脇に止めて地図を逆さまにして眺めたり、目的地に電話して確認したりというのは日常茶飯事。何度も同じ道をぐるぐる回ることだってある。 記者を生業とする者としては非効率と思わなくもない。でもそこは支局記者。事件現場のように一刻を争うなら別だが、時間に余裕を持って 出掛けられるなら、道に迷うことも楽しむくらいでいたい。その方が道を覚えるのも早い◆先日、丸森町耕野地区でユニークなイベントがあった。 雑貨屋、マッサージ、カフェなどが時間も場所もバラバラに1日限りで出現するというもの。既存の店舗を利用する店もあれば、 民家の縁側のような場所でサービスを提供する人たちもいた。簡単な案内地図が用意されたとはいえ、地元住民でなければ迷わず車で すべて回るのは不可能に近かった。すぐにたどり着けなくても、道に迷った先で新しい発見、出会いがあるかもしれない。 自然豊かな山間部の耕野地区ならではの企画には、そんな隠れた楽しみ方もあったのではないか。スローライフという言葉は お洒落すぎてあまり好きではないが、目的地ありきの単なる移動も味気ない。時間をかけて行程そのものをじっくり堪能してみてはどうだろう ◆車のガラス越しに季節の移り変わりを感じる。どんなエピソードが待っているのかと胸を躍らせ、取材先へと向かう。 「100㍍手前、右折シテクダサイ」なんて機械音に邪魔されたら興ざめだ。住民の笑顔、息遣いであふれる角田・丸森の風景は、 カーナビのハードディスクには収まらない。自分だけが持っている記憶の中の白地図に、どんな新しい色を加えることができるか。 毎日それが楽しみでハンドルを握っている。