2008/6/1UP


今さらですが

 ◆…後味の悪さが残った。西根中統廃合問題で、市議会は5月22日、同校の廃校を決める条例改正案を可決した。 手続き上は廃校が本決まりとなり、来年4月の統合に向けて具体的な作業が動きだす。だが、少なからぬ住民が納得 していない状況は変わらない。今さらと言われるかもしれないが、いくつかの「べきだった」を指摘したい ◆…統合 問題の発端は校舎の耐震強度不足。ならば、論議の前にどの程度危険性があるのか真っ先に提示すべきだった。耐震 診断の結果、強度不足であることは間違いないとしても、実際にどのような被害が出るのか市は予測していない。倒 壊するのか、はたまた壁にひびが入る程度なのか、大きな違いだ。専門家に調査を依頼すれば、ある程度の情報は得 られただろう。前提条件を欠いた議論は議論と呼べない ◆…次に①新築②補強③小中併設(または一貫校)④統合― という考えられる選択肢について、それぞれのメリット・デメリットをコストとともに市民全体に明確に提示すべき だった。市財政にゆとりがない中では、費用の問題は無視できない。「生徒数が少ない学校に多額の費用を投入する ぐらいなら図書館を改修しろ」という他地区の住民もいるだろう。「その程度の費用で済むなら、改修してあげれば いいじゃないか」という意見もあるだろう。考える材料が不足していては、議論はできない ◆…住民への説明遅れも 致命的だ。昨年5月に統合案を議会に示した段階で、市の責任において速やかに住民説明会を行うべきだった。議会 提案後の開催では言い訳的に開いたと捉えられても仕方がない。加えて、西根地区振興協議会に結論を委ねるかのよ うな市側の発言が繰り返されたのも問題だ。本来、学校統廃合の判断は、住民の意見を入れつつも市側の責任におい てなすべきこと。「地域のまつりをどうするか」といった深刻な対立を生まないテーマならともかく、必ず賛否が分 かれる難しい議論は、振興協には荷が重すぎないか。回答を拒否することもできたのに結論を出してしまった責任は あるにせよ、市に代わって批判の矢面に立たされた役員の方々には同情を禁じ得ない。 ◆…市が民意を探るのに、振 興協を利用したこと自体は誤りではない。住民の意向を知るチャンネルは一つでも多い方が良いからだ。だがそれも 、やるべき説明を十分にし、市独自の意向調査をするなど打つべき手を打った後での話だ。どの市町村でも学校統廃 合に対する住民の理解を得るのは難しい作業だ。その面倒さを避けたいがために、住民に重荷を押しつけてしまった か。それとも、市が進める「協働のまちづくり」の実績づくりの良い機会だと見誤ったか。いずれにしても、民主主 義を強化するという意義深い取り組みである「協働のまちづくり」に対し、一部住民の信頼感が損なわれたのは残念 だ。 ◆…子供たちにとって最良の選択は何か。最も肝心な議論も十分ではなかった。保護者の考えはさまざまある。 部活は個人競技中心でクラスメートは毎年同じ顔触れという学校ではなく、より大きな社会でもまれてほしいと思う 親もいよう。他方、スクールバスで何十分も無駄な時間を過ごして遠くの学校に通うよりも、規模は小さくても見知 った顔の安心感の中で過ごしてほしいという人もいるだろう。もちろん、統合論が進む中では、賛成者は積極的に声 を上げることはなく、サイレントマジョリティー(声なき多数者)であるのかもしれない。わたし自身、どちらが良 いのか正解はわからない。だが、保護者と地域住民、そして子供たち自身も加わって徹底的に話し合えれば良かった のにと思う。 ◆…何より残念なのは、住民の間に生まれた「地域の問題を真剣に考えよう」という機運を生かせなか ったことだ。住民団体からは、小中一貫校化するといったアイデアや、財政面が問題ならば資金や建築材料を住民が 出し合うといった対案が出た。地域課題を行政に任せきりにせず、自らの問題として考え、行動する。まさにこれこ そが「協働」の本質ではなかったか。せっかく生まれた希望の芽が摘まれてしまったような気がしてならない。