2007/8/1UP


アイデア料理

 ◆…スーパーの食品売り場で、手に取った品物をじっくり見る癖がついた。そう、「中国産」の文字がないか確認するためだ。 日本では認められない添加物や基準以上の農薬残留など、以前から問題は少なくなかった。 だが、近ごろ虚実混じりつつ騒動になった「インク染めスイカ」「毛髪しょうゆ」「下水溝油ラーメン」などというのは、 食品の安全性をうんぬんする以前の話で、まじめに考えるべき社会問題というよりは、バラエティー番組のネタのようだ。 それらの極め付きが「段ボール肉まん」だった。 ◆…段ボールを溶かして肉の増量剤にする。安物の肉まんのあんは、確かに紙でも混ぜたようなグニグニとした食感がある。 だからなのだろう、ニュースを聞いて「いかにもありそうな話」とすんなり受け入れてしまった。その後、 テレビ局によるやらせということで決着したものの、テレビの暴走なのか、あるいは中国政府が世界的に広がった騒動の火消しを図ったのか、 いまなお納得できていない。ただ、段ボールで肉まんを作るというアイデアはなかなか独創的だ。 局員が自分の頭で考えたというよりは、どこかで食べた、あるいは見聞きしたという事実があったように思える。 ◆…中国産食品にダメなものが多いのは確かでも、人ごととして嘲笑してもいられない。 国内でも、肉を解凍するのに雨水を利用したり、豚、鶏、カモに牛の内臓や脂をぐちゃぐちゃに混ぜ込んで「牛ひき肉」として、 堂々と売ったりしたミートホープのような会社もある。その姿は中国のオカルト食品生産者とそっくりではないか。 ◆…消費者としては少しでも危なそうな物には手を出したくないところだが、それは現実には難しい。 ファミリーレストランであれ街のラーメン屋さんであれ、ハンバーグの肉がまっとうにつくられたものか、 モヤシやメンマがどこの産地の物か、表示がないことがほとんどだから確かめようがない。となると、 自衛するのも難しく、万全を期そうとするなら、一切外食をやめ、自分で動物を飼い、野菜を作るしかない。 ◆…一番の責任はインチキ食品の生産者にあるとしても、遠くの誰かを責めるのは難しい。 となると、万一の場合に責任を負うべきなのは、国内の輸入業者や販売者である。 毒入り食品を流通させれば人を殺すこともあるのだということを念頭に置き、 とにかく厳しいチェック体制を確立させてほしい。食品に問題が発生した場合には、 過失がなくても結果だけで責任を問うべきで、厳罰に処する仕組みも必要だ。 ◆…ただ、私たちも「いい品はいい値段」になることを覚悟する必要があるかもしれない。 安値で買い叩けばどこの国であれ生産者のモラル低下を招き、野菜にしろ海産物にしろ、 薬品に頼らない生産方法はコスト上昇につながる。そして、大量消費社会に暮らすのが一部の先進国だけだった時代から、 今では七十億人に迫る全人口が同じ生活水準を目指すようになり、世界的な争奪戦で食糧の値段は上昇基調を続けている。 貧乏な人は毒まんじゅうを食い、金持ちだけがクリーンな食糧を手に入れる。もっと貧乏な人は、毒まんじゅうさえ食べられない。 そんな時代が間もなくやってくるのかもしれない。ただ、田園地帯としての角田の立ち位置からすれば、 まじめな農産物の価格が全体的に上がっていくことは地域にとって歓迎すべきこと。そう思うことだけがわずかな慰めだ。