2007/6/1UP


宿 題

 ◆…うちの子供が通う幼稚園では、金曜日は「おにぎり弁当の日」。この日ばかりはおかずは一切なし。 小さな弁当箱におにぎりをたった1つだけ入れる。いつもびっくりするほど食べる子なので、 足りないのではと心配してしまうのだが、本人はなければないでそれほど気にしていないようだ。 ◆…世界では日々の食事を欠く人々が少なくない。そんな現実を親子で考えるきっかけにしてほしいということだそうだ。子供にそうさせて親が腹いっぱいというのではかみ合わない話だと思い、ある日おにぎりだけの昼食にしてみた。ゆっくりとかみしめながら、いつかこのコメも食べられなくなる日が来るのだろうかと思いを巡らせた。◆…地球温暖化対策の切り札になると、このところ注目を集める燃料用のバイオエタノール。原油依存の社会から脱する夢の技術として好意的に取り上げられる一方、食糧問題に関連して負の影響が報道されるケースが目立ってきた。◆…バイオエタノールとは、植物からつくるアルコールのことで、世界ではサトウキビやトウモロコシが主な原料だが、日本酒をつくるようにコメから製造することも可能だ。県内でも試験的に多収量米を栽培する取り組みが始まっている。二酸化炭素を取り込んで育つため、燃やしても計算上は二酸化炭素を放出せず、温暖化に影響を与えないとされる。原油のように枯渇の心配がなく、政治的な不安定さがぬぐえない中東への依存度が下がり、環境への負荷が少ない。これだけならバラ色の技術だ。 ◆…だが、原料となる食料の値上がりが顕著となっているのはご存じの通り。全面高といった様相で、穀物や糖類だけでなく、生産地が転作を進めたため、オレンジまでもが値上がりしたという。日本の減反地のように、余剰生産力を生かすのなら問題はないのだが、 経済原則に従って行動するのが人間だからそれでは済まない。いずれしょう油やケーキ、さらには木綿のパンツまで値上がりしていくのだろう。◆…問題は、われわれがスーパーで面白くない気分を味わうだけでは済まなくないことだ。米国の専門家は「乗用車のタンクを満杯にするには、1人が1年間に食べる量の穀物が必要だ」と指摘する。一種のたとえ話として、実際そうであるかはさておき、世界的には少数派である自家用車を持つ層と貧困層が同じ食糧を巡って争う構図になっていくのは間違いなさそうだ。貧困層は一般的に生計費に占める食費の割合が高く、より大きなダメージを受ける。実際、メキシコでは今年1月、トウモロコシでつくる主食トルティーヤが値上がりし、低所得者が抗議の大規模デモを起こす事態にまで発展した。◆…主食価格の上昇により、現在8億人の飢餓人口が2020年には12億7000万人に増えるという試算もある。こうなるともはや手放しで「クリーンエネルギー」ともてはやすことができなくなってくる。◆…食料とエネルギーの境界線がなくなるというのは、ややこしい話だ。地球上に絶対的に食糧が足りないわけではない。なのに、飢えて死ぬ人がいる。今3歳のわが子がもう少し大きくなり、「どうしてなの」と問う日がきっと来る。 そのとき、休日のドライブ中だったらどうだろう。何と説明したらよいものか、ずいぶん難しい宿題だなあと頭を抱えてしまった。