2001/06/01UP


角田の地酒夢物語

 角田の街のそちこちに立つのぼり。「角田の地酒」。白地に翻る力強い文字を見る度に、心が妙に浮き立ってくる。 もちろん酒は嫌いじゃないけれど、それだけが理由じゃない。味覚で、胃袋で、痺れるような酩酊の中で、角田の街を感じようという「心意気」に魅かれてしまう。 角田産米を使った日本酒5品が発売されて1ヶ月。 10年来愛された「スペースロマン」に代わり、着実にその認知度は向上しているようだ。新商品の開発も検討されているといい、今後の新しい展開も楽しみだ。  日本国中、おいしい酒は山ほどある。でも、飲食物の味を決めるのはブランド名や価格、産地、高品質の食材だけではないだろう。角田の地酒の取材中、酒造元の蔵王酒造の人がうまい解説をしてくれた。 曰く。「今の酒には味はあっても『物語』がない。物語がない酒はおいしくないし、面白くないんです」 原料になった減農薬、減化学肥料の角田産米をシナリオに、酒造りにかかわった生産者、消費者、 商業者それぞれが主要登場人物として脇を固めた「角田の地酒」。自分たちが生まれ育った土地を愛し、農産物を盛り上げようとの気持ちを伏線にした今回の「酒造りの物語」が、面白くないわけがない。  発売直後、早速角田の地酒を買い求め、封を切った。濃厚な液体が揺れる。芳醇な香りに誘われ、グラスを空けるピッチが上がる。でも、ちょっと急ぎすぎた。エンディングを迎えるころには、 酒の物語はいつの間にか夢物語へと幕を変えていた。