2026/7/1UP
予定稿
予定稿というものがあります。取材に出かける前に、資料や過去の記事を読み、「たぶん、こういう展開になるだろう」と先に下書きをしておく原稿です。何も用意せずに現場へ飛び込む記者もいます。小心の人間には、その身軽さはうらやましい限りです。
予定稿を準備しておくと、現場で何を見ればいいかが分かります。迷子にならないための地図のようなものです。準備しなかった時に限って後から聞き忘れたことに気付き、頭を抱えることになります。 ところが、地図を持っていても、地図にない道に出くわすことがあります。先月末、角田市などが共催したクマの緊急銃猟訓練を取材しました。昨年の訓練を参考に朝作った予定稿が手元にありました。ところが角田署から、規制線の近さ、クマが迫った場合の逃げ道などについて指摘があり、訓練の設定が急きょ変わりました。
こうなると、原稿は一から書き直しです。訓練の参加者同様、カメラを構えていた報道陣も慌てました。ただ、思い込みを少し外してくれるものがあるから面白いとも言えます。全て予定通りなら、読者に代わって現場に足を運び、様子を伝える業種は不要でしょう。 アリストテレスは著作「詩学」の中で、優れた劇にはペリペテイア(逆転)とアナグノリシス(発見)があると考えました。人間の脳は次に起きることを予測しながら世界を見ている、と言われます。全て予定調和的に展開するストーリーは、心に残りにくいのです。
訓練や会議、イベントをつつがなく終えることは大事ですが、一方でちょっとした驚きが人を動かすことも事実。この寄稿が掲載される頃には準備が大詰めを迎えているであろう一大イベント「ポケモン天文台」はどんな工夫が凝らされているのか、今から楽しみでなりません。
◇訂正◇
前号で吉野臥城の代表作「逢隈川辺」の語句を「ささらぐ」と引用しましたが、正しくは「さざらく」でした。ご指摘の労を取っていただいた西田朋さんに、この場を借りて感謝申し上げます。
