2014/11/1UP


勧進帳

 歌舞伎十八番の「勧進帳」。兄頼朝に追われ、奥州へ逃れる義経一行が安宅の関で苦境に陥り、弁慶の機転で乗り切る話です。白紙の巻物を朗々と読み上げた弁慶になぞらえて、締め切り間際の突発事故などの際、取材内容を電話で送稿することを新聞社の用語で「勧進帳」と言います。手元のメモを見て頭の中で原稿を組み立て、句読点や改行、「佐藤の佐はにんべんにひだり」など人名や地名の字解まで口頭で伝える作業。時間の押し迫った状況なので、なおさら難しくなります。手書き原稿と公衆電話の往時は記者に必須の技術だったそうですが、パソコンと携帯電話の現在は機会も少なくなりました。私も新人の頃に数度、実地訓練として上司に鍛えられた程度です。今は携帯電話のアンテナが立てば、山奥の取材現場からでも原稿をモバイル送信し、本社のデスクとやりとりできます。「勧進帳」が最速の送稿手段とされた時代は遠く過ぎ去りましたが、「速く正確に」という原稿の基本を学ぶには一番。伝統の技術を受け継いでいきたいものです。